君はライズをしていたし、僕はロッドを持っていたんだ

亮太

2019年10月22日 18:23

何匹目かのオイカワを釣ったところで、
「お! 釣った」と言いながら3人の子供たちが近づいてきた。
中の一人が「何をしているんですか?」と訊くので、
「釣り。フライフィッシングという釣りだよ」と答えると、
「僕も釣りしたいなあ。でも竿持ってないし」とこちらを見る。

い、いや、待て。
これはなあ、オイカワファインというロッドでだな、小板橋さんがな……いやいやいや貸す勇気はない。

それで「ほら、これで釣るんだ」とフライを見せてやると、
「ちっちゃ!」と目を見張ったが、
残りの二人はすっかり飽きたようで、
「石積みしようよ」「そうだな!」と行ってしまった。
釣りに興味があるらしいその子も、
こちらをチラチラ見ながら行ってしまった。
「オイカワハンドブック」を持っていれば、
「これを読むといい」と渡したところだが、
持ってなかったんでね。
一人、フライフィッシング中毒者を作れたかもしれないのに、
惜しいことをした。




10月21日、いつも川に入っていた地点は全く入れないので、
500m上流へ自転車で進む。
橋の下に自転車を置き、少し下流を見る。


岸が削られ、流れは濁々。

橋の下には今まで網を打っていたというおじさんが一人。
私を呼びとめ言うことには、
「ずっと上に行った放水路のところが、溜まりになっていて大きなのが1匹。あとメダカかな? 小さいメダカがいっぱい。ほかに目の横に白い筋があるけっこう大きい亀がいて、あれは、白い筋があるからカミツキガメかな、カミツキガメ。俺がね、網をバーンとやっちゃったから、逃げたんだけどね」
……俺にはいらん情報のような気もするが、訊いてみた。
「大きいのは鯉ですかね」
「鯉? うーん、どうかな。大きかったね」
それは何? しかし、
「分かりました。じゃあ、ちょっと行ってみます」と言って、
岸沿いに歩いた。

途中でオイカワファインをつなぎ、
リーダーグリースを塗りたくったBCMCを
ポトリと岸際に浮かせてみたけれど、
全く何にも起きない。


あちこち崩れている。




いつもの場所から1.5km歩いてきた。

見つけた。
ライズだ。


放水路から流れてきて本流に入る直前の溜まり。
たぶん、おじさんが言っていたのはここのことだろう。

ライズしているのはメダカじゃない。
オイカワだ。

君たちが必死にここに逃げ込み、
ようやく安堵したのだろうということも想像に難くない。
よかったよかった。
生きていたんだね。
そう、僕も安堵した。

でも君たちはライズしていたし、
僕はオイカワファインを持っていたんだ。
ごめん。
どうしても釣りたくて。

#24ミッジピューパを2センチ刻みに速いリトリーブ。


ぷるるるるとオイカワファインが震える。


生きていてよかったなあ、と思いつつ釣ってしまう。


私という人間は業の深い生き物です。

ぶれぶれで見えないオイカワとオイカワファインと赤いリールのグレース。


バランスはいい。


いつもより遠い家路、1時間半かかって帰ると
手の甲にはまだ、リーダーグリースが残っていた。




あなたにおススメの記事
関連記事