「角打ち」=「かどうち」?「かくうち」?:校正者歴27年の男は漢字が得意か

亮太

2019年02月18日 14:15

少しずつ気温もあがってきたものの、
釣りビトにとっての極楽は、
まだもう少し先でしょうかね。
早く釣りの話題でブログ更新したいね。


「角打ち」、さあ、どう読むか。
ハイボールを口に運ぶ私に、その人(仮にH氏とする)は言った。
「角打ち、あれは『かくうち』じゃなく『かどうち』って読むんですよ」
私は「えっ……」と言葉に詰まった。
が、5秒の沈黙の後、告白した。
「かくうち、だと思ってました」
H氏は、「かどうち、なんですって」。
私は「そうだったのか……」としか答えられなかった。

(「かどうち」ね、「かどうち」。覚えたぜ)と
心の中で思いつつも実はまだ、
完全に信じきっているわけではないのが、
校正者という生き物の性(さが)だ。
しかしだ。
酒を酌み交わしているその場で、
すぐにスマホで調べるなんてのも野暮な話でしょ。
というわけで、その場では飲み続け、
あー、こりゃこりゃになった僕だ。

そもそも、なぜそんな話になったか。
お互いに釣りビトであり、出版関係であるH氏とは、
釣り関係の漢字の話になったのだ。

H氏が出席した釣り関係の場で、
ある人が、「わかんはさ」とか「わかんはね」と
「わかん」という言葉を大声で、
連呼していたのという。
H氏はこの人はなぜこんな場で「和姦」などという言葉を
大声で連呼するのだろう? と激しく疑問に感じたが、
そのうち「ああ、和竿(わざお)のことを言っているのか」と
気づいたのだという。
和(わ=音読み)+竿(さお=訓読み)を(重箱読み)せず、
音読み+音読みにしてしまったのだね。
知っている人だったが、今さらと思って
訂正はしなかったらしい。
というか、よほどの仲じゃないと、
そんなのを「おまえさん、間違っておるよ」などと
言えないよなあ。


……という話なんだが、その話を聞いた翌日、
「角打ち」を我が家の辞書で調べた。
我が家にある辞書は電子含め、以下の通り。
日本国語大辞典、大辞泉、新明解国語辞典、岩波国語辞典、広辞苑、明鏡国語辞典、小学館国語辞典

全部見たが、なんと、
「かどうち」と見出しがある辞書がない。


◆日本国語大辞典
かく‐うち 【角打】
解説・用例〔名〕
(1)、(2)略
(3)酒を升(ます)にはいったまま飲むこと。升飲み。

◆大辞泉
かく‐うち 【角打ち】
1 略
2 (四角い升の角に口を付けて飲むことから)酒屋の店頭で升酒を直接に飲むこと。転じて、店の一角を仕切って立ち飲み用にすること。また、そこで飲むこと。
3 略

◆日本方言大辞典
かくうち【角打】
(1) 升ますに入ったままの酒を飲むこと。
  福岡県/ 熊本県下益城郡
(2) 酒屋で立ち飲みすること。
   佐賀県/ 熊本県
《かくち》 熊本県玉名郡
《かくうちざけ【―酒】》 福岡市/ 佐賀県
(3)略

これは辞書じゃないが、
◆東洋文庫『江南春』青木正兒著
p104「酒の肴に塩」の中に、〈九州の田舎で往々「角(かく、とルビあり)打ち」という飲み方を見聞した。桝の角から冷酒を息をも吐かず飲みほすのである〉


なんだ。
「かくうち」でよかったのか。

自分の漢字に対する自信のなさで、
簡単に、ああ、そうだったのか、
「『かどうち』だったのか」と信じ込んでしまうのだ。
(完全に信じきっているわけではないのが、
校正者という生き物の性だ、とか言ってるくせに)

皆さん!
「角打ち」は「かくうち」ですよ!

このように、校正者は、あ、「校正者は」というと、
いろんな立派な校正者も含んでしまうので、
今ここにいる校正者歴27年の男は、
漢字が苦手である。

漢検2級に合格した後、1級の勉強を1週間やって
面倒くさくなってやめたが、
別に校正の仕事には何の支障もないので、
漢字に対する態度はまるで改まらず、
分からなかったらその場で(酒の場以外ね)辞書を引く。
それで四半世紀、飯を食ってきたのでいいのですね。

ちなみに現役校正者であるうちのカミさんに訊いてみると、
「え? 『かどうち』だと思ってけど、そう訊くってことは、『かくうち』?」、
ほおら、間違って覚えていた上に自信がない。


いい天気だな。
ゲラ読むのをやめて、
金魚釣りにでも行こうかな。


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